3-1. PC1幕間
夢を見た、君は幾度もなく見た夢だ。
あの日、妹の笑顔を失った日。その光景を。
手術は大成功だったと聞く。
彼女はその病に打ち勝ち、日の下に立ち、すぐにまたその笑顔をみせてくれるものだと思っていた。
しかし、手術が終わって1日経っても、3日経っても、1週間経っても、彼女は目覚めることはなかった。
君たちは妹の病室で家族揃って説明を受けている。

「手術は成功しました、はじめさんはもう病に怯える必要はありません」
「身体的には全くの健康と言って良いでしょう」
「…つまり、意識が回復しない原因は依然不明のままです…」

「…お力になれず、誠に申し訳ありません。」
そう言って医師は深々と君たちに頭を下げる。
その手が血が出るほどに強く握り込まれていたのが印象的だった。
君はこの医師が幼少の頃から、医師の領分を超えて君たち兄妹(姉妹)を気にかけてくれていたことを知っている。
難しい移植手術を成功させたのも彼の腕と情熱があってこそだという。
そんなことを知っているがゆえ、膨らむ大きな感情をどこにぶつけたら良いかも分からずただ悶々とするしかなかった。
思考をめぐらす君の裏では、大人たちが医療保障の話などをしているが耳に入らなかった。

「脳波を見るに、彼女は夢を見ているような状態にあるようです」
「確かなことは言えませんが、彼女の意識を呼び覚ますには、彼女に声をかけ続けてあげてください」
「声が届くとすれば、それはきっと私共ではなく、ご家族の皆さんの声です。どうか」
そこまで記憶の再生が終わると、周囲の人々がいつの間にかいなくなっている。
いや、それどころか周囲の空間すらいつの間にかなくなっており、あたりは暗い闇に閉ざされている。
残っているのは君と、妹の二人だけ。
しかし妹は眠ったようにベッドで呼吸を繰り返すのみだ。
>PC1の独白RPなど
ふと妹の手を握る。
すると妹の目がすぅっと開く。
驚いて見やると、その髪はいつの間にか新雪のような色に染まり、赤い瞳孔が君をまっすぐと見つめている。

「おにい…ちゃん?/おねえ…ちゃん?」
「あれ、わたし…」
「手術、いや、取り出されて…あれ?」
しばらくよくわからない言葉を呟いたかと思うと彼女は改めて君の手を取って話し出す。

「何がなんだかわからないけど…お兄ちゃん/お姉ちゃん」
「モモカの、妹の助けになってあげて」
🔽了承した場合
彼女はニコリと微笑むと

「ありがとう、お兄ちゃん/お姉ちゃん」
SAN回復:1D3
🔽断った場合
彼女の顔は信じられないものを見るような、絶望したものに変わる。

「お願い、どうか…」
なぜ夢の中ですら、妹の目から雨が溢れねばならないのだろうか。
自分は、なんのために芸人になったのだったのだろうか…。
SANc:0/1D3

「お兄ちゃん/お姉ちゃん、お願い、どうか、モモカと…シロを…!」
3-2. PC2幕間
夢を見た、君は幾度となく見た夢だ。
姉の笑顔を失ったあの日以降のことを。
幸いにして、君の棲む施設は大事には至らなかった。
それでも心荒ぶあの時期に、ひだまりのような姉の笑顔は必要だった。
施設の皆にも、街の皆にも、そしてもちろんあなたにも。
あなたは捜した。
捜して、捜して、捜した。
しかし、あの混乱の中、人一人の行方を追おうなど果たして無謀だったのか、一向に姉の足取りを掴むことは出来なかった。
>姉捜しのRP等
失意にのまれ、そしてその最中パートナーと出会い、今の君がある。
あの時、パートナーと会えなかったら一体どうなっていただろう。
その問いに答えはないが、今あなたが姉と離れ笑顔で居られるのは、間違いなくパートナーと出会えたためだろう。
人との縁が、君を生かし続けている。
人の笑顔が、君を生かし続けている。
君はまだ姉を探して必死に暗闇をかける。
どれほど走っただろうか、息も絶え絶えとなったその先に一人の人物が立ちはだかる。
百暗 哀(もくらあい)、姉と同じ顔、同じ声をながら、姉と何もかも違う女性。

「笑いなど、苦しむ人を傷つけるだけ」
「そのようなもの今の世の中には不要なのです」
耳をふさぐ、しかし彼女の言葉は塞いだ耳をすんなり通り抜け、自分の核に嵐を巻き起こす。
いつの間にか彼女以外にも様々な人に囲まれている。
そして周囲から頭が割れそうなほど大きな人の声が直接頭蓋に響いてくる。
助けて、つらい、寂しい、悲しい、苦しい。
様々な思いが胸中を巡る。言葉が詰まって、やがて息もできなくなる。
たまらず膝を付き地面にとっぷせる。
どれくらい経っただろうか。
ふと顔をあげると、眼の前で二人の人物がテレビに向かって座っている。
一人はまだ幼さの残る頃の君。
もう一人は同じくらい若い姉。
テレビに映るのは日本一のエンターテイナーを決める大会、E-1グランプリ。
君も今年は出場している笑いの祭典だ。
▶姉とのRP例

「芸人さんってすごいわね…こんなに沢山の人を笑顔にして」
「これだけの人に笑顔を届けられたらどれだけ素敵かしら…」

「{PC2名前}ちゃんだったら、いつかこの舞台に立てるかもね…いや、優勝しちゃうかも」
「そうしたら、迷子になっても安心ね。きっとどこに居てもTVから{PC2名前}ちゃんの声が聞こえるもの」

「ねぇ{PC2名前}ちゃん、私が迷子になったら{PC2名前}ちゃんが見つけ出してね」
「その代わり{PC2名前}ちゃんが迷子になったら、私が捜してあげるから」
いつか見た遠い日の光景、ソレを懐かしんでいると、
今度は回想の中の彼女がこちらに振り返り語りかけてくる。

「笑って、{PC2名前}ちゃん」
「笑顔でいればつらい気持ちも自然と吹き飛んでいくし、周りの人もきっと笑ってくれるから」

「そして、つらい人を見かけたらどうか笑顔にしてあげて」
「その人の笑顔は、きっとあなたの力になるはずだから」
そう言って彼女は君の手を握る。
久しく聞いていなかった温かな声、久しく感じていなかった温かな感触。
その暖かさに包まれるとあたりは一気に明るみ、ジリリと頭蓋に嫌な音が響き渡る。
>PC2の独白等があれば